2016(平成28)年度 春季大会

2016(平成28)年度 昭和文学会 春季大会
 
特集 〈文学が世界で流通する〉という事態を問う
 
日時 6月11日(土)午後1時より
 
会場 青山学院大学 14号館総研ビル12階大会議室
   (〒150-8366 東京都渋谷区渋谷4-4-25)

 
 
開会の辞

篠原 進(青山学院大学副学長)

 
【基調講演】
人文学の将来と人間的差異(anthropological difference)
酒井 直樹

 

【研究発表】
戦後日本における「世界文学」の系譜

笹沼 俊暁

 

第二次テクスト論の射程 ――翻訳・原作・流通――

中村 三春

 
           
【シンポジウム】
 
閉会の辞
代表幹事

司会 榊原 理智・高橋 由貴

 

※終了後、青学会館にて懇親会を予定しております。予約は不要、当日受付にてお申し込み下さい。
 
 
【企画趣旨】
  2000年代から「世界文学」という言葉を冠した著書が多く出版されるようになり、英語圏を中心に文学の生成・流通過程を世界的な文脈の中で捉える新たな文学研究の可能性が模索されている。現代文学はもちろん、過去の文学を再編成した「世界文学」のアンソロジー編纂も、英語圏では複数試みられており、2010年以降は日本でも、翻訳を通じて日本文学が流通することに価値を見出す言説が、数多く生産されている。
  こうした事態は、ポスト・コロニアリズムの隆盛によって非西洋圏文学の英語訳が激増したこと、インターネットによって新しいタイプの読者共同体が生成されつつあること等、文学の流通/生成のインフラ変容に支えられているが、ここで構想され具体化されている「世界文学」という概念は、たしかに新たな可能性を日本文学研究にもたらすと思われる。例えば、一国内の文脈に縛り付けられていた文学作品が、思いも寄らなかった文脈に置き直されることによって別の読みに拓かれる可能性はあるし、西欧文学の基準で編まれていた文学史が、アフリカやアジアの文学を考慮に入れることによって根底から組み替えられることになるかもしれない。「国民文学」の縛りや、西洋・非西洋の壁を打ち破る可能性を、「世界文学」という言葉の広がりが持っていることは間違いがない。
  しかし、同時に「世界文学」という問題系は、さまざまな葛藤を我々に投げかける。この潮流を、今までの西洋・日本の非対称性を是正する機会であるかのように考え、翻訳された日本文学がグローバルに認定されることを単純に言祝ぐのであれば、それはグローバル・スタンダードを無批判に受け入れ、温存することになるだけである。そこでは、「日本」という同一性は担保されたまま「西洋」に取って代わる名辞として「世界」が使われているのであって、最終的には非対称性を問う契機を失うことになる。これまでの普遍/特殊の構造が、「世界」を装ってさらに強化される可能性すらあると考えられる。
  これまで、こうした問題にもっとも先鋭的に取り組んできたのは翻訳論の領域であった。今回の企画では「〈文学が世界で流通する〉という事態を問う」という中心テーマを掲げ、翻訳論の成果を踏まえつつも、多角的な視点から「世界文学」の問題系の検証を行うと同時に、現在の日本文学研究のさまざまな前提を問い直す場となることを目指したい。
 
 
【講演者略歴】
酒井 直樹(さかい・なおき)
  1946年、神奈川県生まれ。東京大学文学部哲学科卒業後、シカゴ大学東アジア言語文化学科で博士号取得。シカゴ大学人文科学部助教授などを経て、現在はコーネル大学比較文学科及びアジア学科教授。専門は日本思想史、比較文学、翻訳理論。
  著書に『死産される日本語・日本人――「日本」の歴史‐地政学的配置』(新曜社、1996年)、『日本思想という問題――翻訳と主体』(岩波書店、1997年)、『過去の声――一八世紀日本の言説における言語の地位』(以文社、2002年)、『日本/映像/米国――共感の共同体と帝国的国民主義』(青土社、2007年)、『希望と憲法 日本国憲法の発話主体と応答』(以文社、2008年)などがある。
 
 
【発表要旨】
戦後日本における「世界文学」の系譜

笹沼 俊暁(ささぬま・としあき、台湾・東海大学副教授)

  近年、池澤夏樹編集による世界文学全集など、従来の西欧中心主義的な世界文学を越える、世界文学概念の再検証の動きがある。カルチュラルスタディーズやポストコロニアル批評などの隆盛がその背景にあるが、しかし、そうした動きは、冷戦期にさかんに叫ばれた「第三世界」概念にも源流があると考えられる。戦後日本思想史における「世界文学」言説を再検証する。同時に、リービ英雄のように、メジャーな言語を母語としつつ、相対的にマイナーな言語を創作言語とする、「マイナー文学(ドゥルーズ&ガタリ)」を反転させた創作活動の意義についても検証する。                               
 
第二次テクスト論の射程――翻訳・原作・流通――
中村 三春(なかむら・みはる、北海道大学大学院教授)

  日本語は翻訳語との融合を経て現代を迎え、日本文学は海外からの影響を受けて展開してきた。翻訳と比較は、他者理解と自己認識において不可避であることを、酒井直樹やジョナサン・カラーは語っている。日本文学の翻訳や原作が世界的に流通している現状を見ても、その言語は既に翻訳的なものであり、原作もまた常に混成的な対象であることを忘れることはできない。翻訳、あるいは原作のある作品は、他のテクストによって作られる第二次テクストであるが、第一次テクストも本来第二次テクストであり、国際化は実は根元的に発生していたことになる。ここからオリジナリティや主体性に関する根底的な見直しが必要であるとともに、国際化や流通の回路を逆流させ、新たな断面を切り出すことができるのではないだろうか。ここでは、村上春樹と小川洋子を題材として、翻訳と原作が流通する時に見えてくる再帰的な様相を、第二次テクスト一般論を展望しつつとらえてみたい。
 
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