【お知らせ】2011(平成23)年度 昭和文学会 秋季大会

会場 近畿大学 EキャンパスA館(文芸学部) 301教室
〒 577 ― 8502 大阪府 東大阪市 小若江3―4―1
日時 11月5日(土)午後1時30分より

特集 ベストセラーから考える ―七〇年代・文学の変容―

開会の辞

近畿大学文芸学部教授 浅野 洋

【研究発表】
サラリーマン小説の変遷から見る戦後日本社会
―源氏鶏太論

鈴木 貴宇

青春の変容―庄司薫から村上春樹へ

柴田 勝二

きまじめなエンターテインメント、おもしろいシリアス
―七〇年代児童文学が準備したもの―

宮川 健郎

【講演】
ベストセラーと私

中沢 けい

閉会の辞

代表幹事 日高 昭二

司会 帆苅 基生・松下 浩幸

※大会終了後、懇親会を予定しておりますので、皆様ふるってご参加ください。懇親会の予約は不要、当日受付にてお申込みください。

11月6日(日)午前11時00分より

文学散歩・織田作之助「木の都」を歩く―大阪上町台地

※詳しくは当日、会場にておたずねください。

【講演者紹介】中沢 けい(なかざわ・けい)
作家・法政大学教授。一九五九年、横浜市生まれ。千葉県立安房高等学校卒業。明治大学政治経済学部卒。一九七八年、小説「海を感じる時」で第二一回群像新人賞受賞。一九八五年、小説「水平線上にて」で第七回野間文芸新人賞を受賞。著書に『豊海と育海の物語』(二〇〇六年三月、集英社文庫)、『うさぎとトランペット』(二〇〇七年六月、新潮文庫)、『大人になるヒント』(二〇〇八年一〇月、メディアパル)、『うさぎ狩り(訳・金承福)』(二〇〇八年一一月、韓国・江出版)他多数ある。

【発表要旨】
サラリーマン小説の変遷から見る戦後日本社会──源氏鶏太論

 鈴木 貴宇

本発表は、昭和のサラリーマンに愛読された作家、源氏鶏太に焦点を当て、戦後日本社会におけるサラリーマンの心情を明らかにする。源氏の代表作は映画化もされた『三等重役』(一九五二)であるが、同作に描かれる明朗性が、現実からの逃避として解釈される傾向にあった。その様相は、社内恋愛の推奨によって育まれる「会社家族化」にあるが、雑誌連載時、当初の源氏が目論んだプロットは、占領終結と戦後の民主化を象徴する労働組合問題を描くことにあった。編集部の意向から、社内恋愛という糖衣が施された内容となり、それが源氏の作風として高度成長期のサラリーマンたちに愛読されていく。しかし、高度成長後の一九七〇年代に入ると、サラリーマンとして生きる苦悩と暗部をテーマとする作風になり、それが『幽霊になった男』(一九七〇)に集結する。今回の発表では、主に『三等重役』と『幽霊になった男』の二作を取り上げ、この間に日本社会が遂げた変容――高度成長前夜からその終焉まで――と、源氏の描くサラリーマン表象との相関性を指摘したい。
(早稲田大学、青山学院大学非常勤講師)

青春の変容――庄司薫から村上春樹へ

柴田 勝二

一九七〇年代は、高度経済成長であれ、その派生物としての反体制運動であれ、人々を総体的な次元で包摂し、そこに参与することによって無条件の充実や昂揚感がもたらされた六〇年代的な潮流が失われ、一人一人が自身の感性のアンテナにしたがって、自分の傾向や心性に叶った対象物を見出していく多様化の時代として展開していった。ロマン的な情念の昂揚を前提とする「青春」の概念も、こうした自己に適合した対象との間に親和的な関係を打ち立てるという方向に変化していく。村上春樹はそうした時代の様相をもっともよく捉えた作品世界を構築したが、それは六〇年代的なロマン主義に固執し、次第に作品を書きえなくなっていった庄司薫の四部作の世界を批判的に受け継ぐ形で成り立っている。またその間に登場した村上龍も、自身の肉体と外界との感性的な親和をもたらそうとすると同時に、それを覆す暴力への傾斜をはらんだ独特の世界を築き上げた。
(東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授)

きまじめなエンターテインメント、おもしろいシリアス――七〇年代児童文学が準備したもの――

 宮川 健郎

一九七〇年代の創作児童文学のベストセラーといえば、まず、灰谷健次郎の『兎の眼』(七四年)だ。青年たちや母親たちにもよく読まれ、やがて、大人むきの文芸書版も刊行された。児童文学が大人の読み物でもあるという今日のありかたの先駆けとなった教育小説だが、読者が「読んでいる間成功の雰囲気のなかに生きる」「きまじめなエンターテインメント」にすぎない(石井直人)という批判もある。七八年には、現在までに二千三百万部を売った、那須正幹『ズッコケ三人組』シリーズ(全五〇巻)の第一作が出た。『ズッコケ』は、デフォルメされた人物像と大げさな文章が特徴だけれど、時に「民主主義」「欲望と経済」「家族」「原爆」などなどの重要な主題をかかえこむ、いわば、「おもしろいシリアス」なのではないか。七〇年代のよく読まれた作品に関する考察を足場に、その後の現代児童文学の歩みをも見ていきたい。
(武蔵野大学教育学部教授)