【報告】昭和文学会 2010年秋季大会 SFと現代文学
- 日時 2010年11月13日(土) 午後1時30分より
- 会場 法政大学 市ヶ谷キャンパス 外濠校舎S305教室 *昭和文学会会員以外の方でも、無料・申込不要にて参加できます。
- 研究発表(司会 竹田 志保・奴田原 諭)幽霊・異星人・失踪者―SFの時代と安部公房 波潟 剛疎外による超越の臨界点―三島由紀夫『美しい星』と大江健三郎『ピンチランナー調書』 山崎 義光
笙野頼子的想像力の冒険―意識・身体・感覚― 中川 成美 - 講演 次の千年の文学 高橋 源一郎
- 懇親会
※ 大会終了後、学内にて懇親会を予定しておりますので、皆様ふるってご参加下さい。
報告要旨
幽霊・異星人・失踪者―SFの時代と安部公房
波潟 剛
自分はなぜ安部公房とSFの関係について論じてこなかったのか。当時は先行研究が少なかったからといってもあまり説得力はなく、やはりどこかで純文学とSFとの区別をしていたのだと思う。いま、あらためてこの課題と向き合うならば、一九五〇年代後半の創作における変化期が、彼のSF創作の開始と重なっている点で注目に値する。今回は短編「使者」(一九五八年)と、その後長編になった『人間そっくり』(一九六七年)を軸に考えてみたい。火星人と自称する人物をめぐる物語である「使者」と、ほぼ同じ時期の戯曲『幽霊はここにいる』は、その存在が疑問視される不確かさが中心となって展開する点で共通している。また、テレビドラマ版を経て長編となった『人間そっくり』の場合も、『砂の女』(一九六二年)をはじめとする失踪者の物語と同様、不在者をめぐる問題を追及しているといえる。こうした共通点を検証し、新たな安部公房文学の視座を提示できるよう試みたい。 (九州大学大学院比較社会文化研究院准教授)
疎外による超越の臨界点―三島由紀夫『美しい星』と大江健三郎『ピンチランナー調書』
山崎 義光
常識や自明なものを覆す「危険なこと」を「言葉」「文体」によって表象することを「文学」の要件とする三島は、この意味でSFへの期待を表明し、キューバでの核戦争の危機が報道された六二年に『美しい星』を発表している。『美しい星』では、無為無力から反転し「宇宙人」であると自覚した大杉一家と羽黒一派が、核による終末論的な世界の帰趨について議論する。一方、三島(文学)に対する批評を一つのモチーフとした大江には、息子と父がそれぞれ二十歳成長し、若返る「転換」を起こし、「宇宙的な意志」による使命を自認して、核をめぐる闘争劇に加わる『ピンチランナー調書』(七六年)がある。無為無力な生、障害を負った生という疎外を契機として超越論的な立場を獲得するというSF的奇想を導入して、核による終末論的なヴィジョンと実存の関係を両作品がどう展開したか、「核時代の想像力」の臨界点について考えたい。 (大阪府立工業高等専門学校)
笙野頼子的想像力の冒険――意識・身体・感覚――
中川 成美
近代科学の進展によってもたらされた近代社会にあって、サイエンス・フィクションという文学ジャンルは、かつて人間はいかなる未来のヴィジョンを夢見たかということを可視化する機能をもっている。ヴェルヌやウェルズが描いた世界は破天荒なほどに現実味を逸したものであっただろう。しかし、現代、それらの幾つかは現実となり、なお私たちの想像力の範囲を超えて「伸展」しようとしている現状を見るにつけ、果たしてそれらをSF的想像力(虚構・非現実)として放置してしまっていいのだろうかという疑問にとらわれてならない。 笙野頼子は、SF的想像力として造られた疑似未来から現在をみようとする。歴史的過去となってしまった「いま」は奇妙な歪みを生じて、自明性の中にどっぷりとつかりこんだ私たちをうろたえさせる。本発表では笙野の旺盛な内的想像力に支えられた90年代の作品群を中心に、「過去」(虚構である事実)となった「いま」(事実である虚構)がどのように登場人物の意識や身体、感覚の現実を構成していくかを分析し、笙野頼子における文学的想像力の問題について考えてみたい。 (立命館大学文学部教授)
【講演者紹介】高橋 源一郎
一九五一年、広島県尾道市生まれ。横浜国立大学経済学部除籍。作家。翻訳家、文芸評論家、明治学院大学教授などの顔も持つ。一九八一年、「さようなら、ギャングたち」で群像新人長篇小説優秀作を受賞し、デビュー。パロディや引用を駆使し、超現実的世界を独創的な文体で描く。一九八八年、『優雅で感傷的な日本野球』で三島由紀夫賞、二〇〇二年『日本文学盛衰史』で伊藤整文学賞を受賞する。著書に『虹の彼方に(オーヴァー・ザ・レインボウ)』(一九八四年、中央公論社)、『ジョン・レノン対火星人』(一九八五年、角川書店)、『ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ』(二〇〇五年、集英社)他多数ある。新著『「悪」と戦う』(二〇一〇年、河出書房新社)は大きな反響を呼んでいる。