第81集特集 現代の演劇と文学

 一九六〇年代のアングラ演劇以降、とりわけ近年においては、戯曲を文学として評価し文学研究の対象とするのみならず、演劇と文学の関係自体を問いなおす新たな枠組みの構築が求められている。一つには、「贋作 桜の森の満開の下」(野田秀樹)や「唐版風の又三郎」(唐十郎)のように、近代の文学作品、それも戯曲ではなく小説が劇作家の手によって大きく変形され、かつ繰り返し上演されているという現象がある。他方で、「細雪」「黒蜥蜴」のように独特の形で定番化している作品もある。翻案(アダプテーション)とも一種のカノン化とも言い得るこうした現象には、どのようなアプローチが有効だろうか。
 また、二〇〇〇年代以降、本谷有希子・岡田利規・山下澄人ら演劇人による小説が次々に文学賞の受賞作・候補作となり話題を呼んだ。平田オリザは『銀河鉄道の夜』を上演する高校演劇部を題材に初の小説を発表し、高橋源一郎『日本文学盛衰史』を原作とする演劇を制作した。演劇人の文化的基盤にはアングラ演劇から八〇年代そして九〇年代に続く都市型小劇場があり、そこで培われた権威や差別を問う表現を再検討することも必要だろう。その意味で、つかこうへいや、近年劇団を復活させた柳美里の存在は重要である。
 演劇界の動向とは別のところで、『水死』で『こころ』を演劇化する人物を登場させた大江健三郎、『劇場』で小劇場の界隈を題材にした又吉直樹のような事例もある。批評の領域では、福嶋亮大や佐々木敦など、演劇的想像力に着眼する動きも見られる。以上のような複層的な現象を踏まえ、本特集では、現代の演劇と文学を多角的な視点で捉えなおしてみたい。
                                                                                   2020年3月15日締切